光皮膚科学最前線 – 紫外線、そして近赤外線にも注意 –

光皮膚科学最前線 – 紫外線、そして近赤外線にも注意 –

肌の光(ひかり)老化をご存知ですか?

年齢を重ねて生ずる自然の老化とは異なります。太陽光線を長期間・無防備に浴びることで生ずる肌の老化のことです。肌の色がくすみ、張りがなくなり、シミ、シワ、たるみとして現れ、さらには皮膚がんが生じることもあります。この光(ひかり)老化という言葉の認知率調査によれば、この言葉を知っているという方は、20%程度と少ないのが現状です。本日の講演で、光(ひかり)老化への理解を深めていただき、その意味・言葉を、ぜひ皆さんにも広げていただきたいと思います。
光老化に加えて、太陽光線により皮膚がんを生ずることもあります。皮膚がんは、約90%が日光露出部に起こります。ワキなど日光が当たらないところには皮膚がんは起こりにくいということです。

光老化による一般的なシミはルビーレーザーでキレイに取れますが、シミの中には皮膚がんの場合もあります。 皮膚がんの場合には、レーザーで取ったり消したりしてはいけません。適切な治療や手術が必要ですので専門医の診断を受けてください。

太陽光線は、その振れ幅(波長ともいいます、)、つまり波長の長さの違いにより、紫外線(UV)、可視光線、赤外線(IR)の3つに分かれます。光老化にもっとも影響を与えているのは紫外線です。
紫外線には、さらにその波長の長さの違いにより紫外線B波(UVB)と紫外線A波(UVA)という2つがあります。さらに私たちの最新の研究で、赤外線の一種である近赤外線(NIR)も光老化に関係していることが分かってきました。

紫外線B波(UVB)は、皮膚の比較的浅いところ、表皮にしか届きませんが、これが表皮のメラニン色素を大量に作り出し、シミの原因となります。
紫外線A波(UVA)は、表皮の下の真皮まで到達し、コラーゲンとエラスチンを変性させ、シワを生み出します。
さらに、近赤外線(NIR)は、赤外線の中でもっとも可視光線に近い波長の光ですが、肌の奥まで到達し、皮下組織や、筋膜まで届きます。この肌の奥深いところでコラーゲンやエラスチンを変性させ、たるみを生じさせることが分かってきました。
つまり、B紫外線(UVB)は表皮に届きシミの原因に、A紫外線(UVA)は真皮まで届きシワの原因に、そして近赤外線(NIR)は、さらに奥の脂肪組織や筋膜にまで届き、たるみの原因になるのです。

光劣化の対策

光老化の対策としては、十分なサンスクリーン効果のある日焼け止めを日常的に使用することが大切です。特に男性の約70%が日焼け止めを使用してないとう調査結果がありますので、肌の光老化のみならず皮膚がん予防の意味でも、日常的に使用してほしいところです。

日焼け止め購入の際には、日常の使用であれば、SPF15以上、PAは+以上のもので、近赤外線にも有効なものを選ぶとよいでしょう。
SPFとは、紫外線B波(UVB)の遮断効果を表わす指標です。その数値が大きいほど遮断効果が高いことを意味します。20分で日焼けを起こすことを基準に、SPF30であれば、日焼けを起こすまでに、その30倍の時間がかかることを意味します。

PAとは、紫外線A波(UVA)の遮断効果を示す指標で「+」「++」「+++」「++++」の4段階があり、「+」の数にしたがい、効果がある、かなり効果がある、非常に効果がある、極めて高い効果がある、ことを意味しています。

近赤外線の場合は、その遮断率を示すSNIP(Score for NIR Protection)という指標があり、SNIP2(遮断率25~49%)以上で遮断効果ありとしています。私たちは近赤外線による光老化対策の意味でも、このSNIPという指標を広める活動をしています。

光老化対策としての日焼け止めですが、ほとんどの人が必要量の半分以下しか塗っていないという現実があります。紫外線B波(UVB)の遮断効果の指標であるSPFは、肌1平方センチメートルあたり、2mgの日焼け止めを塗って測定することが基準となっているのですが、多くの人の実際の使用量は、その半分程度であるとの調査結果があります。つまり、日焼け止めを使用していても、その効果が半減しているということになりますので、少し厚塗りになるように塗ってください。スプレータイプの製品もありますが、厚塗りとはなりませんので奨められません。また、汗で流れたりしたら、塗り直してください。

光老化の意味を理解いただき、光老化によるシミ、シワ、たるみ、さらには皮膚がんの予防対策としても、日焼け止めを正しく使用してください。

川島 眞
株式会社アクシージア 皮膚科学顧問
川島 眞 かわしま まこと
東京女子医科大学名誉教授
日本コスメティック協会理事長
  • 1978年 東京大学 医学部医学科卒業
  • 1984年 フランス パリ市 バスツール研究所乳頭腫ウイルス部
  • 1986年 東京大学 皮膚科講師
  • 1992年 東京女子医科大学 皮膚科 主任教授
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